「医療事務の資格(仕事)は女性におすすめ!」ってよく耳にしますよね。
ネットやパンフレットを開けば、だいたい以下のような魅力的な宣伝文句が並んでいます。
- 女子に人気の資格ナンバーワン!
- 主婦におすすめの資格ランキング第1位
- 全国どこの病院でも使える「手に職」の資格
どこのサイトを見ても概ねこんな感じです。
医療事務の資格を取得しさえすれば、すぐにでも好条件の職場に就けるかのような印象を受けます。
けれども、現実はそう甘くありません。
医療事務の民間の検定試験など合格しても、就職や転職が有利になるなどとは期待しない方がいいでしょう。
現在ある医療事務の多くは、お金を払って指定の通信講座を受講すれば、比較的短期間で取得できる民間資格です。
こうした資格が実際の採用現場でどれほど評価されるのかと言えば、大いに疑問が残ります。
実務未経験の場合、履歴書に書いたとしても、採用担当者にサラッとスルーされてしまうのが現実です。
病院側が採用にあたって重視するのは、まずは「実務経験」です。
もし未経験者から選ぶのであれば、資格の有無よりも、学歴や年齢、そして面接時の応対マナーや清潔感、コミュニケーション能力といった「人物重視の印象」が遥かに優先されます。
法律的な根拠のない単なる民間資格よりも、能力的に問題ないのか、あるいは周囲と円滑に働ける人材かどうかのほうが、病院にとっては重要だからです。
※もちろん、中にはしっかりと勉強が必要な検定試験もありますが、現在の主流は手軽さを売りにしたものです。そのため、民間資格を持っていなくても、面接時の印象や適性次第で即採用されるケースは珍しくありません。
そもそも医療事務なんて資格でもなんでもない
そもそも医療事務がこれほど世間で「資格」として広く認知されるようになったのは、2000年代中盤以降のことです。
大手通信教育会社が頻繁にテレビCMを流したことで、すっかり「定番の資格」として定着しました。
そのため、「医療事務の資格がないと病院で働けない」と思い込んでいる方も大勢いますが、それは誤解です。
実際にはこれらはすべて「民間団体が主催する検定試験」であり、資格がなくても医療事務の仕事は問題なく始められます。
世の中には多くの医療事務講座が存在しますが、各社で統一された国家基準のような規格はありません。
中には在宅受験が可能で、テキストを見ながら短期間で取得できるものもあれば、数ヶ月かけて学ぶ講座もあります。
「テキストを見ながら数週間で取れるもの」を、国家資格と同列の「資格」と呼んでいいのかといえば大いに疑問です。
実態としては、単なる民間団体が主催する検定試験に過ぎず、いわゆる「手軽に取れる民間資格」の代表格と言えます。
病院での医療事務の立場をリアルに解説

病院は医者を頂点としたピラミッド型社会
病院では膨大な数のスタッフが働いていますが、その組織構造は、医師を頂点とした厳格なライセンス(資格)に基づく「完全なピラミッド型社会」を形成しています。
医師の下には、看護の専門職である看護師、助産師、保健師が控えています。
さらに医療技術の専門家として、臨床工学技士、診療放射線技師、臨床検査技師などが並び、リハビリ専門職として理学療法士や作業療法士が在籍しています。薬剤師や管理栄養士、公認心理師も同様です。
これらすべての職種に共通するのは、専門の大学や養成学校で数年間みっちり勉強し、国家試験をパスして得た専門的な国家資格であるという点です。
病院という組織は、一般的な会社のような役職や経験年数以上に、この保有する国家資格の難易度と専門性によって、崩れることのない明確な職能ピラミッド型社会を築いています。
医療事務は無資格でもできるため組織内の立場はシビア
そんな超資格社会の職場で、医療事務の立ち位置はかなり厳しいものになります。
なぜなら「無資格でも、誰でも挑戦できる仕事」という位置付けだからです。
国家資格を持つ医療従事者たちからすば、数週間で取れる民間資格や検定試験は、専門資格とは見なしません。
そのため、病院で「医療事務の資格を持っています」とアピールしても、現場の専門職からは「実務で何ができるの?」と冷静に見られるのがオチです。
当然、国家資格者には基本給のほかに数万円の「資格手当」がつきますが、医療事務にそうした資格手当がつくケースはほとんどありません。組織内では無資格でもできる事務職として扱われるためです。
立場的にもピラミッドの最下層になりやすく、給与水準も決して高くはない。
これが病院という特殊な環境における医療事務のシビアな現実です。
そのため、イメージとのギャップに耐えかねて、せっかく就職しても早期に離職してしまう人が後を絶ちません。
かつては医事会計と言われた独特の業界
かつて医療事務の仕事は、一般的に「医事会計」と呼ばれ、非常に独特な業界を形成していました。
もともと業務の専門性(レセプト業務など)が高く、現場でのストレスも多いため定着率が低く、就職しても1〜2年で辞めてしまう人が大勢いました。
しかしその反面、「経験者」になりさえすれば全国どこの病院でも重宝されるため、ひとつの病院を辞めても、すぐに別の病院の医事会計として再就職していく人が多かったのです。
「仕事が嫌で辞めたはずなのに、また違う病院で同じ仕事を選ぶ」という人が多い不思議な流動性を持つ業界でした。
さらに付け加えると、私が営業として現場を回っていた数十年前の当時は、この「医事会計」に従事するのは圧倒的に男性職員が多い時代でもありました。
実際に医療事務の現場を見てきたからこそ言えること

私は以前、医療事務用のソフトウェア(医事会計システム)を販売・導入するために、多くの病院やクリニックの現場を営業で回っていました。
そこで実際の医事課の職員や、医療事務のリーダーたちから、現場の本音や苦労話を直接たくさん聞きました。
本記事に書いている内容は、ネットの情報を拾い集めた想像のストーリーではなく、実際の現場を見て聞いてきた私自身の一次情報に基づいています。
ただし、当時から比べるとシステムも進化し、働き方改革などで職場環境が少しずつ改善されている可能性はあります。
また、これが全国100%すべての病院に当てはまる絶対的な実態だと主張するつもりもありません。
あくまで医療業界が持つ構造的な一側面として、冷静に受け止めていただければ幸いです。
「おすすめ」という甘い言葉にだまされてはいけない
インターネット上にある「医療事務の資格を大絶賛するサイト」の多くは、通信教育の会社やスクールによる受講生の勧誘(アフィリエイト広告など)が目的です。
つまり、皆さんに講座受講料や受験料を支払ってもらうためのビジネスとして運営されています。
ビジネスである以上、受講生が納得して申し込んでいるなら問題はありません。
しかし、あまりにも現実の勤務実態とかけ離れた、誇大な表現やキラキラした宣伝文句が目立ちすぎるのは事実です。
医療事務は民間の業者が設定している検定に過ぎず、法律上の配置義務や独占業務といった根拠はありません。
実際の医療事務の求人票を見れば一目瞭然ですが、好条件の求人はそのほとんどが「経験者優遇」です。
民間資格の有無は二の次であり、資格があっても実務未経験であれば、採用されてもアルバイトや派遣社員からのスタートというケースが大半を占めます。
しかも、その時給は地域の最低賃金水準に近いことも少なくありません。
地域の雇用情勢によっては、一般の小売店やコンビニのスタッフと時給が変わらない、あるいはそれ以下というケースすらあります。
日々の業務も、窓口の会計や電話応対、レセプトチェックだけでなく、院内の雑務や各種専門職の手が回らないサポート業務など、誰かがやらなければ回らない仕事を一手に引き受けることもあります。
それでいて月給で見ると手取りが非常に低いという不満の声をよく耳にします。
窓口ではデリケートな患者さんの対応に追われ、院内では医師や看護師などの専門職の下で気を遣う……。
これこそが、華やかな宣伝文句の裏にある医療事務のリアルな側面です。
これから目指そうと考えている方は、イメージや広告の甘い言葉だけに惑わされず、こうした業界の構造と現実をしっかりと理解した上で、慎重に判断することをおすすめします。

