海事代理士
マイナーな試験なのでテキストや参考書が出ておらず勉強するのも一苦労。
種類 | 学習期間 | 難易度 | 合格率 |
---|---|---|---|
国家資格 |
1年程度 |
難しい |
50% |
活かし方 | 取得費用 | 受験資格 | おすすめ度 |
---|---|---|---|
独立・開業 |
2~5万円 |
誰でも受験可 |
※合格率は筆記試験についてです。口述試験の合格率は60~98%ほどです。
最終更新日:2022/12/09
海事代理士とは
船舶は、家や土地のような財産と同じで、造船したら所有者・使用者を明らかにするために「登記」をしなければなりません。
また、登記とは別に船舶の「登録」もしなければなりません。小型船舶は一部の船舶を除き、登録を受けなければ航行させてはならないことになっています。
海事代理士は、海運業者や造船業者あるいは船主などの個人から依頼を受けて、船舶の登記や登録・検査申請などに関する書類を作成し、国土交通省や都道府県、市町村などの行政機関に対する申請手続きを代行します。
海事代理士とは、海事代理士法という法律により規定された国家資格で「海の法律家」とも呼ばれています。
普段あまり馴染みがない職業ですが、海運業界で働く人や船舶を所有している人にとっては世話になる機会も多い存在です。
関連団体:一般社団法人日本海事代理士会
他の士業と兼業するケースがほとんど
海事代理士の国家試験合格後、地方運輸局に登録すれば海事代理士と名乗って事務所を開けます。
しかし現実的には、海事代理士の資格だけで開業している人はごくわずかで、司法書士、行政書士、社会保険労務士などと兼業して事務所を開いている人がほとんどです。
最も多いのは行政書士との兼業です。海事代理士のホームページを見ると、その多くが行政書士との兼業であることがわかります。
もちろん海事代理士専門の法律事務所もありますが、安定的に仕事量を確保できるのはごく一部の海運・造船業界に太い人脈を持った人に限られると言われます。
海事代理士を目指すのであれば、まずは行政書士や社会保険労務士の資格を取って、働きながらダブルライセンスとして海事代理士の資格も取得して業務の範囲を広げるというのがおすすめの手段です。
行政書士や司法書士に合格していれば、既に憲法、民法に関して十分な知識があるので、海事代理士の試験は合格しやすいメリットもあります。
役に立つ資格なのか?
港湾関係の仕事とは全く別の仕事をしている人がこの資格を取得して独立してもあまりうまくいかないようです。
現在港湾関係の仕事をしているか、既に行政書士や社会保険労務士として活躍している人が、業務の幅を広げるために取得すケースがほとんどです。
海事代理士は、就職や転職に活かす資格ではありません。あくまでも独立して事務所を開くための資格なので、試験に合格して登録を行っても、港湾関係の会社へ就職してそこで海事代理士として働くことはできません。
ちなみに、海事代理士に関する求人はほとんど見つかりません。全国で探してもほぼゼロです。海事代理士専門の事務所もありますが、とにかく数が少ないうえに小規模な個人事務所が多いためまず見つかりません。
ただし、難易度が高くかなり専門的な知識が必要となる試験なので、海運、港湾の会社に就職や転職する際に履歴書に書いてアピールできるメリットはあります。
将来性を徹底研究!
この資格の活かし方
海事代理士試験の合格者は毎年100名~150名前後ですが、行政書士試験の合格者は毎年4,000~5,000名と大幅な開きがあります。それだけ海事代理士の需要は少ないということです。
海事代理士の主となる業務内容は船舶の登記・登録ですが、これは司法書士や行政書士も行うことができるため、海事代理士のみで請け負う仕事の量はさほど多くありません。
海事代理士の資格を活かすには、やはり行政書士や司法書士、社会保険労務士などの資格を併せて取得し、仕事の幅を広げる努力が必要になります。
じゃあ、司法書士、行政書士、社会保険労務士、海事代理士全部取得すれば全部カバーできて理想的かいとば、それは現実的じゃありません。全ての資格について登録料が必要で毎月の会費も支払わなければなりません(海事代理士は任意)。
自分で事務所を開いて海事代理士として独立することもできますが、海事代理士の仕事だけで生計を立てるのが困難です。
行政書士などの「副業」という認識でキャリアアップの目的で取得するのがおすすめです。その際にも「海事も請け負える行政書士」という方が強みになります。
実際に、行政書士との兼業率は相当高いです。特に許認可にしては行政書士資格がないとやりずらいようです。
他士業との関係について
海事代理士の主となる業務は船舶の登記・登録ですが、これは司法書士や行政書士でも行うことができます。
例えば、船舶の「登記」に関しては海事代理士のみの独占業務ではなく、司法書士も手続きができる「共管独占業務」と考えられています。
関連資格:司法書士とは
一部の特殊な船舶においては司法書士にしかできない登記もあります。船舶登記の申請結果に関して不満がある場合に行う審査請求の手続きは司法書士にしかできません。
次に、大型船舶の「登録」に関しては、海事代理士の独占業務とされています。
しかし、総トン数20トン未満の小型船舶の登録・検査その他の手続きについては、海事代理士だけではなく行政書士も代理人として申請できます。
関連資格:行政書士とは
海事代理士は、船員に関する労務、その他の海事許認可などの手続きを代理人として行います。その際、船舶ごとに制定される船員に関する就業規則の作成は船員法に基づき海事代理士の独占業務とされています。
しかし、同じ海運会社や造船会社であっても陸上勤務者を対象とする就業規則の作成は労働基準法に基づき社会保険労務士の独占業務になります。
関連資格:社会保険労務士とは
船員保険法に定める船員のみに適用される各種社会保険の手続きも社会保険労務士の独占業務です。船員保険法で定める手続きは海事代理士は申請できません。
その他、海事系の許認可の申請についても行政書士や司法書士の独占業務となっているものもあります。
公表されている合格率以上に難易度は高く感じられる
海事代理士の合格率は、ほぼ毎年の50%前後です。この数字だけを見ると受験生の半分くらいは合格できるので簡単そうに思えます。
しかし、受験生の多くは既に司法書士や行政書士、社会保険労務士の資格を持っている人達です。もともと受験生のレベルが高いワケですから、その中の50%といっても簡単には合格できません。
海事代理士も行政書士も両方合格している人の意見を聞くと、概ね行政書士の方が難易度が高いという意見のようです。
そのため、行政書士の合格者なら海事代理士の合格率はおそらく50%を超えるはずです。
逆に、他の資格を未受験で海事代理士を受験する人にとってはおそらく50%の合格率以上に難しく感じられるでしょう。
合格するには
試験は年1回、全国の主要都市で実施されます。
試験内容は「筆記」と「口述」があり、筆記試験に合格した人、および前年の筆記試験合格者で筆記試験免除の申請をした人が口述試験に進みます。
つまり、筆記試験に一度合格すれば、その年と翌年の2回口述試験のチャンスがあります。
筆記試験の合格率はだいたい50%前後で安定して推移しています。多少の変動はあっても半数程度は合格します。
一方、口述試験の合格率は年度により大きなばらつきがあります。低い時で60%、高い時で90%以上です。2017年度はなんと98.1%ですから、本人確認程度でほぼ全員口述試験に合格しています。
海事代理士試験の最終合格率は30~50%です。行政書士試験の合格率が10%前後なので一見簡単そうに思えますが、試験自体は非常に難易度が高く、合格は容易ではありません。
過去問からそのまま出題されることも多い
筆記試験は、国家試験には珍しく過去問がそのまま出題されるケースも多いようです。
本試験では、過去問のまま5割くらい出題され、残りは類似問題と新規問題です。そのため、筆記試験対策としては、とにかく過去問を解きまくって丸暗記です。
船舶に関する知識がない人でも十分合格できますが、海事代理士試験特有の用語がたくさん出てくるので専門的な用語集も必要です。
しかし、難解な海事用語を完全に覚えたり理解しようとすると時間ばかりかかります。理解しようとせず、とにかく覚える方が重要です。
それができれば3か月くらいの勉強期間で合格できる人もいます。もっとも事前知識によって違いはありますが、勉強期間は6か月~1年くらいはみておいたほうがよいでしょう。
海事代理士試験で難しいのは口述試験です。前述の通り合格率は年度によってばらつきがありますが、半分近く落とされる年もあります。
口述試験では、条文にない専門用語で質問されるので、理解していないと全く意味不明です。
筆記試験は、用語の理解は無視してとにかく丸暗記の勉強方法がおすすめでしたが、口述試験は逆です。筆記試験が終わった時点で頭を切り換えて海事用語を2か月で習得しなければなりません。筆記試験の合格発表が終わってから口述試験に備えていては遅いです。
この点は、海事関係の実務経験者であれば、おそらくほとんど理解できているはずなので有利です。専門用語で質問されても戸惑うこともないでしょう。
マイナーな試験なのでテキストや参考書がない!
海事代理士は受験生が300人程度のマイナーな試験なので、テキスト・参考書などは書店に並んでいません。難易度以前にテキストが存在しないので非情に面倒な試験です。
下記で紹介する「海事代理士合格マニュアル」という過去問本と海事六法が必要です。購入したらひたすら解きまくります。
当然、初学者であれば分からないので、マニュアルの下に「~法~条」などと書いてあるのでそれを海事六法を引いて暗記します。海事六法に記載されていない法令などはネットで検索します。
本試験もほぼ過去問の形式で出題されるので、この勉強方法を全教科繰り返します。この勉強方法しかないです。
口述試験も過去問前提で手を広げない方がいいです。実際に試験員から聞かれた内容について答えます。口述試験は2年続けて合格率が低いことはないようなので、珍問、奇問で万が一落とされたら翌年にかけましょう。
国土交通省のサイトで、筆記試験と口述試験について過去問と模範解答を10年分以上公開しています。試験対策の参考にしてください。
参照:海事代理士になるには - 国土交通省
※下の方に過去問が掲載されています。
おすすめの講座
海事代理士試験用のテキスト・参考書などは書店に並んでいないため、通信講座を受講するのがおすすめです。
通信講座であれば、合格するために必要な教材が最初から一式揃っています。
おすすめは伊藤塾です。
出題20科目の法律知識の習得から、出題形式に合わせた筆記試験対策、口述試験対策までを学習できます。
※こちらから受講申し込みができます。
『海事代理士』になるなら法律資格専門の受験指導校・伊藤塾!
試験情報
試験日 |
お申込み |
---|---|
筆記試験:9月末頃 |
例年8月中 |
受験資格 |
---|
学歴、年齢、性別等による制限はありません。 |
試験内容 |
---|
【試験場所】
受験料:6,800円
【口述試験】
※筆記試験及び口述試験の回答に当たり適用すべき法令等は、令和2年4月1日現在において施行されているものとします。
【合格基準】
合格者の発表:口述試験終了後20日以内に、官報において受験番号を公示し、本人には合格証書を送付。 |
試験に関する詳しい情報は海事代理士になるには - 国土交通省をご覧ください。
おすすめテキスト・基本書
海事代理士合格マニュアル(7訂版)口述試験・合格体験記・受験手引・難読用語読み方一覧付き 平成28年〜令和2年収録 | |||||
---|---|---|---|---|---|
海事代理士の受験テキストや問題集は、行政書士や宅建に比べて種類が少なく、選択の余地がほとんどないと言ってもよいでしょう。その中で、唯一この本が受験生必携の一冊とも言えます。内容が過去問形式となっていますが、テキストのようにひたすらこれを解いて学習する受験生がほとんどです。この本だけで合格できた受験生もいます。 | |||||
|
おすすめ問題集
海事代理士厳選過去問題集 【第3版】 (ReaL海事代理士講座) |
|||||
---|---|---|---|---|---|
非常に解説がよくできた過去問題集という評判です。内容がわかりやすく、「海事代理士合格マニュアル」よりおすすめという受験生もいますが、圧倒的に利用している受験生の数が少なく、正直なところ未知数です。
※Amzonでは中古品のみ販売しています。後継となる新刊については下記ホームページよりお買い求めください。 |
|||||
|
海事代理士口述マスター |
|||||
---|---|---|---|---|---|
過去の口述試験の問題をまとめて掲載しています。ただ、「海事代理士合格マニュアル」でも同じ内容が載せてあり、国土交通省のホームページに載っている過去問とも同じなのでわざわざ買う必要はありません。
ランク別に重要度などを載せて、各科目の難易度的なものも分析してあります。全体的に見やすい構成になっています。
※現在(2022年10月)Amazonでこの書籍の取扱いはないようです。下記ホームページを参照ください。最新版が販売されています。 |
|||||
|
おすすめ参考書
海事六法 2022年版 | |||||
---|---|---|---|---|---|
受験生対策用の六法です。こういった法令はインターネットで全て見ることができますが、やはり受験勉強をすすめる上では、横に一冊置いて学習したいですね。
※購入する際は最新版であることを確認してください。 |
|||||
|